| ●ファラミアについて 『二つの塔』が公開されて、すでに三週間以上が経っています。たぶん、興味がある方はすでに一度は見に行かれている頃でしょう。わたしは、今週にも五度目を見に行くところです。 実は、わたしは、この映画を見て、ちょっと身悶えてしまった点があるのです。 わたしはトールキンをエピック・ファンタジーの父としてこよなく尊敬していますが、もし、わたしがトールキンであったら、この映画を見て、身悶えをしていただろうな、と思いました。 それは……ファラミアのキャラクター設定についてでした。 幼い頃、最初に『指輪物語』を読んだわたしは、なんといってもファラミアが大好きになりました。アラゴルンよりも、ファラミアが好きでした。だって、ファラミアは「いい人」なんですもん。想いを寄せるエオウィンをすげなく振ってしまうアラゴルンよりも、エオウィンのひたむきさを愛し、アラゴルンの愛を手に入れられなくて自暴自棄の中で戦って死のうとした彼女を受け止めたファラミアは、女の子にとってアラゴルン以上にヒーローでした。 でも、「物語」としてはそれは間違っているのですよね(汗)。 もし、わたしが編集者であり、今、異世界ファンタジーとしての『指輪物語』を読んだとしたら、厳しく、リテイクを命じるでしょう。「ヒーローはアラゴルンなんですよ、トールキンさん! これでは、ファラミアのせいで、アラゴルンの存在が霞んでしまいます!」 そして、ピーター・ジャクソンと脚本家の二人の女性も、まさに、そうしたようです。でも、そういうふうに自分の創作物の不備を指摘される、というのは、作者としては身悶えするような恥ずかしいことなのが実作者であるわたしにはわかっているので。トールキンに代わって、というわけではないですけれど、なんだかわたしが身悶えしてしまったわけです。 とはいえ、ファラミアとボロミア、デネソール公の親子三角関係と申しましょうか、あの、シェークスピア的な悲劇を織りなす複雑な家庭愛の世界は、たぶん、あのファラミアのキャラクター設定でも生きるだろうな、と思います。ファラミアは、猜疑心が強く、強権的でありながらも実務に細かく、おおらかさがないデネソール公とそっくりな性格をしていて、自分を見るような思いを父親に抱かせる息子であったゆえに、父に疎まれた、ということになっているわけですから。 わがままであっても人間的で覇気があり、人望があって、誰からも好かれる「王の性格」をしていたボロミアを、だから、父であるデネソール公も、弟であるファラミアも心から愛していた。それゆえに、ボロミアを失った「似たもの」同志で近親憎悪を抱き合っていた父と弟は、ボロミアへの愛を核に構成していた家族としての絆をどうやって結び直せばいいのかがわからず、滅んでいく──それほどに愛されていたボロミアが、でも、だからこそ人間として弱い面を持っていた、というトールキンのこの物語を、たぶん、ピーター・ジャクソン監督もふたりの脚本家の女性たちもまさか割愛はしないだろう、と期待しています。 そうは言っても。原作では、旅の仲間を離れたフロドとサムにとって、ファラミアとの出会いは本当なら、ほっ、と息を抜けた安息のひとときであったはずなので、映画『ふたつの塔』のフロドの、追い詰められた表情はちょっと辛かったけれど。 でも、その分、ゴクリ、もとえ、ゴラムの悲しくも哀れなキャラクターが際だったなぁ、と思いました。サムの、きわめて常識的で、正しいけれど「ちょっと冷たい」対応と、自分の姿を彼に見てしまって、なんとかならないかとあがいてしまうフロドの「優しい」対応──なんだか身につまされる、というか。やっぱり、フロドを心の底から愛して、守ろうとしているのはサムだけなんですけれど、そして、本当にサムは正しいのだけれど。サムがいなければ、フロドはあんなふうに強くもなれなかったと思うのだけれど。何が正しいのかって……難しいですよね。サムは、この物語の中でもっとも心が強いキャラクターだと思うのだけれど。 それにしても。やはり心配なのは、三部作最後の『王の帰還』は、時間が足りなくならないのでしょうか、という……(汗)。ピピン・メリー組はまだガンダロフ組と合流してないし、フロドはまだモルドールまで着いていないし。デネソール公は姿も現していない……ミナス・ティリスの姿も見えてません。いえ……たぶん、やってくれるだろう、と思いますが。 『二つの塔』は、第一作と同じく、日本での公開は世界でも一番最後になりましたし、今年は〈ハリー・ポッター〉の第三作もないというのに、配給会社がまたしても日本人には最後まで待たせるというのなら、仕方ないからどこか早く公開する場所に出向いていくしかないか、と思っています。まぁ、それが出来るかどうかはわかりませんが。もしかしたら、戦争……とか起こっているかもしれませんしね。 頼むから、この作品だけは見せて。そう願ってやみませんが。 さて。アラゴルン役のヴィゴ・モーテンセン氏がイラク反戦を訴えている、ということに関してはこの前にアップしたコンテンツで書きましたが、メールで、ボストン在住のMr.Idoさんから、アメリカでのトークショーで、彼が日本に着てきたのと同じTシャツで反戦を訴えた時のことについて情報をいただきました。ありがとうございました。 そのトークショーは、Charlie Rose Show (PBS)という番組だったそうです。詳しく知りたい方は、http://www.charlierose.com/のサイトにどうぞ。SearchVIGGOと入力すると、その時のビデオを通販で買うこともできます(海外販売も行っています)。ショーデータは、12/3/2002 Panel: “The Lord of the Rings: The Two Towers”です。興味がある方は購入して頑張ってヒアリングしてみてください。 ピーター・ジャクソンは、ヴィゴがその件について話している間は、終始、無言だったそうです。ニュージーランド人なので、アメリカの問題に口を出すべきではない、と考えていたのでしょうね。ただし、ニュージーランドの元首はいまもエリザベス女王で、イギリスを宗主国とするニュージーランドは、小国といえども、国際紛争があって国連軍が出動する時には欠かさず必ず自軍を派遣し、自らの血を流してきたなかなかマッチョな国ですが。 ショーの中で、ヴィゴは、「イラクを攻撃するとしたら、アメリカ軍こそサルマン軍かもしれない」とまで言及し、場が凍ったそうですが。……敵を作っただろうなぁ、ヴィゴ、と思いましたが、あっぱれです。 でも、わたしは、彼がそこまで言えるからこそ、アメリカという民主主義の国は、ヴィゴにとって誇れる祖国なんだろうなぁ、と思います。 ブッシュ大統領という人間の人物評価としては、わたしもあまり好きになれそうにはないのですが、彼の今の政策を強力に進めて、支えているのが、本来、アメリカではマイノリティの代表だったアフリカ系アメリカ人の期待の星のパウエル長官だ、ということも興味深いな、とわたしは思っています。そして、今回の騒動で、イラク、という国がフセインという圧制者がいるにもかかわらず、共産主義政権だ、ということを思い出せられたのは、皮肉なことに、イラクからバチカンのローマ法王に特使が出たからでした。そのイラクの特使となった政府高官は、自身が敬虔なローマン・カトリックの信者だということで……アラブの他のイスラム国では考えられないことですよね。イラクでは、信教の自由が保障されている、ということでしょう。さらに、イラクでは、女性は、ベールをつけるかつけないかは本人の選択にまかせる、という法律まであるそうです。女性が、ずいぶん自由で、いろんな職業につけるようなシステムになっているようです。そうした、西洋的価値観から見ると先進的な仕組みを持つはずの共産主義国が、北朝鮮と同じく、圧制者という王政に縛られている、ということにも、人間が作り上げる「共産主義」という理想の限界を感じさせられます。共産政権というのは、どうして指導者を国民が容易に交替させることができない仕組みになるんでしょうか? アメリカのやり方は「善」でも「正義」でもないでしょうけれど。でも、欲にかられた人間こそが人の本質であり、資本主義の経済の中で欲にかられてああでもないこうでもない、とする中にしか人類の未来はないらしい、という、冷戦構造以降の新しい現実を、もう一度、人間が直視するためにも、今は時代の試金石なんだろうな、と思います。 ここでヴィゴのトークショーについて紹介していますが、わたし自身はそのことでイラク攻撃に反対だ、と表明したいわけではありません。戦争はないほうがいいに決まっています。自分の作品ではそのことをずっと書き続けていることですし。でも、戦争はイヤだ、と言えば、魔法のように戦争がなくなる、なんてことは現実にはないわけですし、表明するのなら、自分の言葉で表明します。 そう……今は考えています。でも、祭りのように、反戦というムーヴメントに参加するのはわたしはイヤです。それはヴィゴのように、自らにとっての不利益を承知で真面目に訴えている人が目の前にいるからこそ、ますますそう思います。少なくとも、今の日本に住んでいては、責任をもって、遠い事情もわからないイラクで起ころうとしていることにはっきりとした姿勢でものを言うことは、今のわたしにはまだ難しい。いずれにせよ、これは日本が使う石油に関することで、決してわたしたちに無関係ではないし、アフガニスタンの時と同じく、日本は加害者であることから逃れえないでしょう。そういう今の日本の体制に関してなんらアクションも起こしてもいないのに、ただ、戦争反対とお祭りのように唱えることで、そうした加害者の立場から気持ちだけ免責されたい、とは思えないので。そういう日本を選択して、安逸な生活をしているのはわたしたちなのですから。イラクについての情報も、偏差がありすぎます、本当に日本のマスコミって役に立たないなぁ、と思います。変な感想ばかりを流さないで欲しい、あなたの印象や芸能人の知識なしの一般人と同じような感情なんて聞いていても、何も勉強できないし、報道にもならないじゃないですか──と。映画『ロード・オブ・ザ・リング』の話題からはだいぶ外れたので、この辺りにしておきます。 ヴィゴのトークショーのビデオは、わたしも注文したのですが、まだ、手元には届いてません。わたしも頑張って、彼が何を話していたかを聞こうと思います。『指輪物語』とは直接には関係ないことですが、これも縁だろうと思いますから。 関心があったら、あなたも是非、どうぞ。これを縁に、考えることは有意義だろう、と思います。 |