*オタク的追補2

『祝! アカデミー賞4部門受賞! 』

 映画『ロード・オブ・ザ・リング』が、オスカーで、〈撮影賞〉〈作曲賞〉〈特殊効果賞〉〈メイクアップ賞〉の四部門を受賞しました。〈作品賞〉〈監督賞〉〈助演男優賞〉を始め、十三部門にノミネートをされていたことを思うと、たったの四部門、という印象になるかもしれませんが、全米歴代興行成績では、すでに七位にまで食い込んでいる『ハリー・ポッターと賢者の石』はひとりも獲れなかったり、いままで、『スターウォーズ』などの作品がどれほど苦戦してきたかを考えれば、外国人の監督、アメリカ人以外の俳優がほとんどでスタッフの多くのニュージーランド人というこの作品が、〈作品賞〉〈監督賞〉にノミネートされるまでに食い込んだのは大健闘だと思うし、これは三部作の、「続く」で終わっている第一作で、評価をここで定めるのもどうかと思うという作品であることも考え合わせると、わたしは満足な結果だったかな、と思っています。
 日本の映画人などの発言を聞いていると、時々、首を傾げることがあります。まぁ、こうしたファンタジー作品は、娯楽超大作のお伽噺で、リアリティある現代社会の問題点を抉り描いたものより価値がない、と見る、いわゆる「オトナのご意見」は、日本、始め、どこでもはびこっているわけですし、いまさらいいですが。自分が「わからないもの」をヒトが褒めるのを聞くのは、気分が悪いのでしょうし。でも、『ゴジラ』を誇るその口と同じ口で、『ロード・オブ・ザ・リング』をけなさないで欲しいなぁ……と思ってしまったり。
 でも、アメリカのアカデミー会員にもそれと同じようなご意見番の人は大勢いると思うのに、それでも、ここまで『ロード・オブ・ザ・リング』が健闘した要因には、アカデミー会員の中にも、トールキンの『指輪物語』という作品に敬意を表し、そして、あの作品をあそこまで映像化したことを評価した人たちが大勢いた、ということじゃないかなぁ、と思うと、とても嬉しくなります。
 授賞式では、タキシード姿のイライジャ・ウッドが相変わらず、愛くるしかった。本当に彼は妖精みたいな魅力がある子だなぁ、と思います。くるくると大きな青い瞳が印象的で。
 今回のアカデミー賞は、黒人であるデンゼル・ワシントンとハリ・ベリーが、主演男優賞、主演女優賞を獲ったオスカー、という意味でも印象的でした。これほどに黒人の俳優たちが活躍している最近のハリウッドなのに、黒人女優が主演女優賞を獲ったのは、今回が初めてのこと、黒人の男優が主演男優賞を獲ったのは、シドニー・ポワチエが37年前に獲って以来、ようやく二人目です。
 戦前の古いハリウッド映画を見ていると、すごく違和感を感じるのは、白人ばかりが出てくる、ということ──。つい、この間まで、『エデンに還れ』で、19世紀のアメリカを書いていたのですが、当時のアメリカの白人にとっては、アメリカという国をプロテスタントの白人による理想の国に建設することは、神に与えられた神聖なる使命であり、何よりも正義であったようです。あの頃のアメリカ人が、今のアメリカにタイム・スリップしてきたら、今のアメリカの国の有り様をさぞかし悪夢だ、と思うのでしょうね……。そんなふうに、必ずしも、歴史のある時点において、当然で正しい、と思われていることは、後から見ると当然でもなく、正しくもない、なんてことは幾らでもあるもんです。
 でも、それぞれの時点では、それは見えない。
 そうしたいろんな状態を打ち破っていくのは、いつも、そのことによって大きな不利益を被り、現状を打破していこうとする、小さな個人の言葉と行動の積み重ねです。
 ひとつの旧弊を打ち破った、今回のオスカーのふたりの若い男女の黒人俳優の栄誉を称えつつも、文句を言わずに前に進むべきだなぁ、と思いました(笑)。いつか、ファンタジーもひとつの文化として、ご立派な文芸作品と肩を並べる価値あるものと認められる日も来るのでは、と思います。『千と千尋の神隠し』も、カンヌで金熊賞を受賞したことですし。
 着実に、二十一世紀になっているんでしょうか、つまり、これは。
 来年のオスカー、再来年のオスカーで、『ロード・オブ・ザ・リング』第二部、第三部がしぶとく評価を重ねていくことを祈りつつ。

  追伸・興味ある方のために、『指輪物語』の前史を描いたトールキンの作品『シルマリルの物語(ザ・シルマリリオン)』についてのテキストも、「窓と風」のほうに、近く、アップします。合わせて、ご覧下さい。