●映画「ロード・オブ・ザ・リング」について


 最後のタイトルロールと一緒に、わたしは泣いていました。映画館が明るくなるまで、あまり立つ人は多くありませんでしたね。二時間五十八分、ほぼ三時間の大作です。試写会場の有楽町マリオン・9階のピカデリー2劇場は、満席でした。
 見終わって、「ああ、わたしは本当に『指輪物語』が好きだ」としみじみ思いました。それにしても、なんてファンのイメージを裏切らない映画を作ってくれたことだろう、と思います。
 その壮大さ! 映画のCG技術はここまで来たか、と思いました。ホビットたちが、本当に自然に「ホビット」です。人よりも小さな種族のホビット、その太くて頑丈で、靴は履かずに裸足で歩く毛の生えた足も見事です。そして、『指輪物語』の中の複雑な人間造型もよく作り込まれていました。
 ビルボやホビットたちの陽気さ、そしてその中でちょっとだけ内省的なホビットの青年のフロド、このフロドを演じたイライジャ・ウッドがものすごくハマっていて、これ以上にはない、というくらいに素晴らしい! そして、さらにサムもいい。このフロドとサムのコンビが見事です。このふたりのキャスティングの成功は、とても大きいと思います。
 ホビット庄(シャイア)については、トールキンが何枚も何枚も絵を描き残しているので(十代から二十代の始めまで、わたしの部屋のカレンダーは、毎年、そのトールキン自身のスケッチによるトールキン・カレンダーであった時期があります)、そのイメージを実に忠実に再現しています。
 ビルボの酒樽の形をした洞穴は、まさにイメージそのままでした! そして、ビルボの百十一歳の誕生日! そこに集まり、ビルボの昔話を聞くホビットの子供たちの可愛いこと!
 サムは、そのパーティの時、後に小さなエレノールをサムに与えるロージィと踊っています。
それに、メリーにピピン! ああ、ホビットたちは生き生きしています。なんで、このホビットたちが中つ国から人の世になった今は、もういなくなってしまっているのかと思ってしまいます。
 そして、ガンダルフがかっこいい……! ともかく、ガンダルフがかっこいいんですー(泣)。
 トールキンが『指輪物語』を書き始めたのは、彼が五十歳になってからですから、もしかしたら、トールキンにとって一番、自分を投影していたのはガンダルフだったかもしれない、と思うものの、今回の映像であらためて思うのは、ガンダルフ、なんてかっこいいんだ、です。あなたが一番かっこいいわ、ガンダルフ……ああ。
 そして、指輪が出てきます。
 指輪について説明される時に、サウロン率いる冥王軍と人間・エルフ・ドワーフ軍の古の合戦シーンが出てきます。ここの映像が白眉! ものすごく美しいです。ああ、ギル・ガラドにエルロス、エルロンド、エレンディルとイシルディア、アナリオン……どれが誰だったかはさすがに一回見ただけではわかんない(泣)。エルロンドさまがかっこいいよぉ(エルロンドさまとイシルディアだけは後のシーンでどれが誰だかわかるのですが)。
 時々、字幕で耳慣れない地名に戸惑います……ああ、そうか、ブリーって粥村のことよね、うん。
 黒の乗り手がすごーくかっこいい。特に、指輪をつけると現れるナズグルとなった古代の王が現れるシーンはすごい……!
 アルウェンは「え」と思いましたが、まぁ……後でセオデン王の姪、エオウィンが出てくることを考えると、アルウェンはアラゴルンの本命なのだから、確かに最初にこういう展開にしておかないと、エオウィンの立場がないかな、と。幼心にも、わたしはエオウィン姫は大好きだったので、エオウィンに目もくれなかったアラゴルンは冷たいなぁ、と思ったものです。こうしておけば、ね……。夕星(ゆうづつ)姫アルウェンの後の運命(『指輪戦争』の後、エルロンドにもケレボルン、ガラドリエルにも置いていかれるあの運命……)を思うと、あの演技ははまっていたかも、と思いました。
 レゴラスが、レゴラスがとてもかっこいいです!
 アニメの時のレゴラスの設定には泣いたから(そりゃ、森エルフは、「変わった格好をしている」と描写されているけれどぉ)、今回のレゴラスには大満足。 アラゴルンとボロミアもとてもいい。特にアラゴルン、最初に出てきた時のうさんくささといったら、そりゃ、フロドが「本当に味方か?」と疑うのも無理ないな、と。でも、フロドがナズグルに襲われて熱に浮かされている時、フロドをお姫さまだっこしちゃうアラゴルンはものすごくかっこいい……(どうやってあんなふうにCG合成しているんだろ、と思うのですが、ほんとにだっこされると、ホビットたちは子供みたいに小さいのよ。撮影に子供を使っているのかなぁ?)。
 ミナス・ティリスらしき建物も、ちらっ、と出てきます。それとも、あれはローハンの宮殿かなぁ……。白の賢者であったサルーマンが住んでいたイセンガルドもすごいことになってますし、裂け谷も美しい……ロスロリエンの森には思い入れもありすぎるので、ここでのみわたしには「ちょっとだけ」不満があるのですが、それは言わないことにしておきましょう。
 ああ、グワイヒアがガンダルフを助け出す一瞬のシーンでは、ひとりで身悶えしてました。ちゃんとグワイヒアが出てくるんだなぁ……。
 そして、モリアの坑道へ。
 今回のバルログは怖くて、いいです。作り物めいた感じがなくて、すごく怖くて迫力あります。バルログがどうなるか、心配だったのですが。
 モリアの地下宮殿も素晴らしく、そして、ビルボと旅をともにしたバーリンたちのお墓には涙してしまいました。こら、ピピン、うかつに触れるなー、ドワーフのひとりの亡骸だったかもしれないのに……。そして、太鼓の音……怖いよぉ。
 なんといっても、クライマックスは、河を流れ下る時の、王たちの柱、アルゴナスです!
 イシルディアとアナリオンの巨大な彫像は、トールキンが描写したのと本当に同じ姿で再現されていて、警告するかのように手を挙げています。CG映像の勝利です、すごい……。
 もう一度、あそこを見たい──というか、わたしは、わたしはあそこに行きたい、あの映像の中に飛び込みたい……。
 ……ふう。ともかく、涙なしでは見れません。
 試写会場では、たまたま、同じ業界で働くわたしの兄も来ていて、ふたりで見た後、話したことはというと。「レゴラスは、ロスロリエンの森に着くまでは森の闇エルフの短い弓を持っていたはずで、ガラドリエルに長い弓をプレゼントされたはずだけれど、ロスロリエンの森以降、弓は変わっていたか?」「ええっ、気が付かなかった、そういえばそうだ。そうか、ガラドリエルは旅のみんなにプレゼントをしたんだっけ、フロドだけじゃなくて。でも、どうだったかな、言われてみると……でも、わからない〜」「おれも気を付けていたんだけれど、見ているうちに夢中になってチェックし忘れた……気になる、どうだったろう?」……あの、お兄さま、わたしたちってものすごくオタクな会話をしている気がするんですが、気のせいでしょうかぁ(涙)。
 食べ物のシーンが少なかったことだけは不満。でも、あれだけ詰め込んで三時間、だから、ホビットどもの食事のシーンなんか撮っているヒマはそりゃなかろう……むむ。ホビットたちも無念だろうな……でも、なんせ忠実に撮ると、朝食に2度目の朝食にお昼に2度目のお昼におやつに2度目のおやつに──。まぁ、それにエントの森に来れば、レンバスは出てくるだろうし……ぶつぶつ。

 前のバクシのアニメの時、『指輪物語』を大好きだった友人が、レゴラスのアニメの設定に怒って、釣り上がった目を「十時十分」と形容して怒っていたのを、不意に思い出しました。すごく妖精が好きな友達で……彼女は、一昨年、亡くなりました。亡くなった彼女が、この映画「ロード・オブ・ザ・リング」を見たら、何と言ったかなぁ、と思ったら、少し……切なくなりました。彼女、狼羅さんは、これを見ずして逝ってしまったんだなぁ、と。
 そして、生きている、というのはいいなぁ、と思いました。2001年、二十一世紀は想像していたのとは少しばかり違いますが、これが見れたことを考えると二十一世紀まで生き延びて良かったなぁ(……いえ、真剣に!)。あと三年、三部作の最後で、指輪が破壊されるまで石にかじり付いても生き伸びて見たいな、と思いますが、願わくば最後まで、この映画のクオリティがこのレベルで保たれますように。
 モリアの坑道で、ガンダルフがフロドを説教するシーンがあります。そのガンダルフの科白は原作にはないんですけれど、すごくいい言葉で……ああ、ガンダルフ、かっこいい、わたしはこんなふうに説教できるじじぃになりたい、と思いました。
 命は大切です。どんなに「つまらない」命に見えても粗末にしてはいけないですね、はい。
 小さき者の、小さな決意──小さき者の、小さな哀れみ。それこそが世界を救う。
 人間は弱く、野卑で、しょうがない種族かもしれないけれど、それゆえに愛しく、美しい。ボロミアの弱さに泣きつつ、ああ、こういう物語だったから、わたしは本当にこの「指輪物語」が好きで好きでたまらなかったんだ、とあらためて思いました。泣きました。
 三月に公開されるそうです。
 是非、ファンタジーファンなら行って下さいね。