〈魔法のお店〉番外編

       『レムリの魔法の木』


                        ひかわ玲子


「ふーん……じゃ、お前の家って、一度もクリスマスをやったことがないんだ」
 秋津の呆れたような口調に、雅巳はちょっとばかし傷ついてしまったりした。
「うん、まぁね。昔っから、そんな西洋の祭りはとんでもないって。大体、うちってあんまし子供におもちゃを買うような家じゃなかったしさ──。お祖父ちゃんが、キリスト教って大嫌いだったんだ。
 大体、クリスマスって、冬至の頃だろ? うちじゃ、その頃から家じゅうが新年の準備でものすげー忙しくなるんだよ。旧暦じゃなくて、正月の儀式だけはちゃんと新暦でやるから──。新暦なんて、キリスト教の暦じゃん、そこらへんに矛盾はないのかな、と思うんだけど」
「なるほどね。面白いな。言われてみれば、それだったらすべての行事を旧暦でやるのが筋ってもんだよなぁ……」
「お前んちだって、キリスト教徒なわけじゃないだろ? なのに、クリスマスに毎年、なんかやるのか?」
「そりゃ、ふつーにね。クリスマスケーキ買って、ローストチキンを食って、なんとなく親からプレゼント貰って──そんなもんだろ?
 それがふつーの日本人ってもんだし」
 ……そうだよなぁ、と雅巳はため息をついた。
(それがふつーの日本人ってもんだよな、うん──!)
 雅巳にしてみても、その意見に異論はない。
 まったく、ない!
 志義町の駅前の商店街だって、クリスマス・シーズンともなれば、クリスマス商戦でイルミネーションが飾られ、でっかいツリーだって立てられる。
 ローストチキンやクリスマス・ケーキがそこここで売られて、クリスマスの浮き浮きした雰囲気で華やぐし、クリスマスとは関係ないはずの東雲神社ですらも、何故か露店が出ていて、サンタクロースのお面を売っていたりする。
 本来、日本の風習というのは、そういうきわめていい加減なものであるはずだし、東雲神社の熱心な氏子たちの家でだって、たいがい、クリスマス・ケーキくらいはちゃんと買って、子供たちはちゃっかりクリスマス・プレゼントを貰っていたりするのが普通だ。
 なのになんだって──。
(うちはダメなのかなぁぁぁぁぁ……)
 東雲家では、そういうのは一切、御法度なのだ。
 ちなみに、その点は、東雲家の分家で、東雲家より厳格な九園家でも事情はもちろん、一緒だ。
 そして、毎年、クリスマスの日には、東雲家でも九園家でもいつもに増して地味〜な一日を強いられる。
 夕食だって、まるで世間へのあてつけのよーにいつもより貧しいくらいな感じのものが出るし、少しでも騒ぐと怒られるし、学校の友達からたとえクリスマス・プレゼントを貰ったとしても、親にみつからないように隠さなければならない。
 子供の頃から、この季節ばかりは、なんておれって不幸なんだろう、と寂しい思いに駆られたものだ。
「いいなぁ──ああ、一度でいいから、おれも家でクリスマスをやって欲しい!」
 心の底から悲しく思って雅巳がそう呟くと、秋津は冷静な目でちらっ、と雅巳をほうを見て、つぶやいた。
「ふうん……あんなの、別にやってもやらなくてもたいしたもんじゃないだろ。日本人なんて、ほとんどがキリスト教徒じゃないんだし、何か意味があってああいう儀式をしてるわけじゃないんだしさ。
 それよか、おれは、座敷童子が出るお前んちみたいにでっかい古い家に一度でいいから住んでみてぇ……」
「なんだったら、おれと取り替えっ子する? おれ、クリスマスを体験できるんだったら、是非ともそうしたいや」
「そんなもんかねぇ──まぁ、なんか勿体ないっつーたら、勿体ないかな。お前んちの庭って、まんまクリスマスツリーになりそうなでっかい木がたくさんあるし。
 あれにイルミネーションつけて飾り付けたら、キレイだろうなぁ」
「うん──とはいえ、父さんがそれを許す日は永遠に来そうにないけどな……」
 つい、声が暗くなっていく雅巳だった。
 ──などとふたりで雑談しているのは、実は、あんまし普通の状況ではなかったりする。
 詰め襟の学生服を来たふたりは、学校帰りである。
 背中には、市立志義高校の指定のデイパックの学生鞄なんぞを背負っている。そして、そんなふうに無駄口を叩きながら、薄暗くて足下がかなり怪しい川岸の土手とおぼしき崖にしがみついて、用心深く岩と岩の間で足場を確保し、そろそろと川下に向かって進んでいるのだ。
 たぶん、足を滑らせると、川面に落っこちるだろう。流れる川の水音は、かなり下のほうから聞こえるから、そういう事態はとりあえず避けたい。
 ──ききっ、とネズミのような声がして、白いハムスターが走り寄ってきた。
 首に可愛いピンクのリボンを巻いている。
 そして、円らな瞳で雅巳を足下から見上げて、早く来い、というようにまた、前方へと走り出す……。
 その時、雅巳の携帯がポケットの中で鳴った。
 慌てて、ポケットから携帯を出して、応じる。
『──雅巳くん? あたし。どう? 来れそう?』
 瑠璃亜の声だ。
 この数ヶ月で、瑠璃亜の雅巳への呼び掛けは、東雲くん、から、雅巳くん、へと昇格している。
「うん。今、向かってる。プロセルピナが急かしてるみたいだ──秋津が一緒だよ」
『え、そーなんだ。ごめーん──なんだか、秋津くんまで巻き込んじゃって』
「いや、秋津も、いろいろと世話になってるから、こういう時は恩を返したいからってついてきてくれて──」
 でも、ホントにこいつはいいやつだよなぁ、と、雅巳は秋津顕一郎のほうをちらり、と見て、思った。
 正直、一緒に来てくれて、助かった。
 ひとりでここまで来るハメに陥っていたら、相当にびびっていたと思う。
「でさ……直輝のやつ、だいじょぶ?」
『うん──今のところ。でも、急いできてくれると助かる』
「わかった。急ぐよ」
 そう言って携帯を切ったものの──。
(急ぐったって、限度があるよなぁ……)
 そんなふうに思って、ため息が出た。
 でも、仕方がない。ここは、ローゼリアン──境界の向こうにある、不思議な異世界。魔女の卵である瑠璃亜は、その世界は雅巳たちが住む世界と隣接した場所にあって、扉の開け方さえわかれば、誰でもすぐに来れる場所だと説明してくれる。
 そして、こうして雅巳もこちらに来るのは2度目であることだし、なるほど、こんな世界もあるのだなぁ、というのは感覚ではわかってきたが、それでもなかなか理性では理解しがたいものがある。
 秋津のほうはどうなんだろう、と思うが──こいつは結構、淡々としている。
 少なくとも、表面上は。
 まぁ、エルフのレムリとかセントール(説明しよう、上半身が人間で下半身が馬である生き物・ケンタウロス、という名でも知られている生き物だ)のロランとかには会っているから、こういう世界があるってことについては納得してるんだろうけれど。
「おい、何だったの、今のケータイ」
 そんなことを考えいると、いきなり、秋津が問いかけてきた。
「あ、ごめん──瑠璃亜から。急げって」
「風渡(わたらい)さんかぁ……面白いな、魔具に使うったって、どーして圏外なのに使えるのかなぁ、その携帯は。おれの携帯番号も教えておくと、かかってくっかな──」
 秋津はぶつぶつと呟く。
 秋津の言葉の中で、瑠璃亜が、風渡さん、であるのに、雅巳はひそかな満足を覚える。
 そんなん、ちっぽけな勝利であるのはわかっているのだが、雅巳の中では、すでに彼女は、風渡さん、ではなくて、瑠璃亜、とか、瑠璃ちゃん、になっているというのが、ひそかな優越感となるのだ。
 もっとも──だからといって、瑠璃亜がどのくらい自分を友達以上に意識してくれているかというと、うむーう……なのだけれど。
「携帯はレムリが持っているから。
 レムリに携帯の番号を教えておくと、入るかもしんないよ。でも、今回みたいなことになることもあるから──それでもよければ、だけれど」
「まぁ、そりゃそーだな。でも、お前より直輝のところに最初に来るってのが、なんとなく、魔法も人を見ている、というか──」
 ええい、うるせぇやい、と心の中で秋津の言葉に、雅巳は毒づいた。
(どうせ、おれは役に立ちませんよ……! そーだよなぁ、どーしておれんとこじゃなくて、直輝のところに──)
 そして、直輝は、おれに何も言わずにひとりで行っちまったんだろう、と思う。
 最近の直輝は、何故かちょっと雅巳にはよそよそしく感じられる。
 直輝と芳輝の双子は、雅巳にとっては幼なじみであり、芳輝はとっくの昔に雅巳に寄りつかなくなっているけれど、ずっとうるさいくらいに一緒にいてくれた直輝までもが、どうも離れていくようなのに、雅巳はすごく寂しさを感じていた。
 まぁ、仕方ないか、とも思う。
 もうお互いに中学三年──ホモと囁かれてまで一緒にいる年でもない。
 おれがもちっとしっかりしなきゃな、と一応、思ったりする雅巳であったりもする。
 その代わり、と言っては何だが、最近、やたら仲良くなってしまったのが秋津顕一郎である。
 またしても今度はクラスの女子どもには、秋津とホモだという噂をしっかり立てられている雅巳であった。
 三角関係になったらしい。
 どこまで行ってもおれはホモなのか、と雅巳としてはそれもちょっと凹みのタネであったが、ただ、秋津とつるみはじめると、なおさらに、いままで、おれは直輝に甘えていたのかな、というのがわかってきた雅巳だった。
 秋津も、悪いヤツではないのだが、雅巳には特に気を遣ってはくれない。
 当たり前だ。秋津には、何も雅巳に気を遣う義理はない。
 たぶん、それが「当たり前の男同士の関係」というものなのだろうが、その秋津との遠慮のない会話で、端々で傷ついてしまったりする軟弱な自分、というものがあったのだ。
 しかも、そのひとつひとつが、たぶん、秋津にしてみれば、まったく悪気がないものであるのがわかるだけに始末が悪い。
 しかし、そこには、直輝と遊んでいる時には決して味わえない刺激もある。
 秋津は東京っ子らしく、何をするにしても垢抜けたセンスがあるし、志義の田舎にいては知り得ないようないろんな情報に精通している。精通している、と言っても、秋津に言わせれば、そんなのは「知っているだろ、ふつー」という域のことが多いらしいのだが──何にせよ、雅巳にとっては新鮮だ。
 もっとも、秋津にとっては、雅巳の発する言葉のひとつひとつが新鮮に聞こえるらしいから、お互い、いい関係を持っている、と言えるのだと思う。
 ……と。
 そんなことを頭の中で考えているうちに、白いハムスターのプロセルピナが待ち受ける崖の底近くにある横穴までようやく降りてきた。
「あそこか?」
 秋津が訊いてきたので、
「うん」
 雅巳が答えると、運動神経が雅巳よりもずっといい秋津は、ひょい、と身を躍らせて、雅巳より前にその洞穴の中へと飛び降りて行ってしまった。
 そういう時の、秋津の動作はほれぼれするくらいかっこよくて、ぢぐじょう、という気分になる。
 雅巳は、でも、だからといってそれを真似する勇気は出ず、慎重に足場を確かめて、用心深く降りて行った。
「お疲れさま、だいじょうぶ?」
 すぐさま、瑠璃亜は駆け寄ってきた。腕を伸ばして、地面の上のプロセルピナを手の平の上に拾い上げる。
 ハムスターは瑠璃亜の手の上で、キキ、と小さな愛らしい鳴き声をあげた。
 瑠璃亜は、プロセルピナを取り上げたのと反対側の手には、煌々と明かりがついたランタンを持っている。
 瑠璃亜の後ろにはセントールのロランが立っていて、すでにそこまで来ていた秋津と握手をしていた。
 そして、ロランは次に雅巳のほうへと歩いてくると、その逞しい腕を伸ばしてきた。
「ようこそ。よく来てくれたね、マサミ」
 ふたりに気を遣ってくれてか、普段は服を着る風習はないロランが、ちゃんと美しいアラベスク模様のような金糸の刺繍が入った美しい服を着ていた。
 そのせいで馬である下半身はすっぽりと隠れていて、四本の蹄ある足先と尻尾だけが慎ましく服の襞の影から覗いている。
 いつもながらに、服を着たロランには威厳ある堂々とした風情がある。
 ロランの手は、雅巳の手をがっしりと握手した後、力強く引き寄せてきて、そのまま、広い胸の中へと抱き締められた。
「久しぶりだね、マサミ。再び会えてとても嬉しいよ。どんなに嬉しく感じているか、この胸を開いて見せたいくらいだ」
 その温かく耳元で囁かれて、雅巳はその大げさな言い回しには赤面したが、まんざらでもなかった。
「こんにちわ、ロラン。ぼくもまたお会いできて嬉しいです。
 今回は、直輝のやつがお世話をかけているようで」
「いや──迷惑をかけたのは、こちらのほうだよ。
 それできみたちに来てもらうことになってしまった、すまないね。
 本来なら、きみたちに世界にわたしから赴いて出迎えるべきだったんだが……」
 そこまでロランが言うと、横合いから瑠璃亜がその言葉をかっさらった。
「でも、それだとロランが誰かに見られるというリスクもあったから、来て貰ったわけ──今日の夜はクリスマスだから、いろいろと人手も多くて、人目もあるでしょ? でも、イヴにごめんなさい、なるべく早く帰れるようにするわね」
 雅巳は首を振った。
「いや、おれのほうは構わないけど。うち、クリスマスって家じゃ一切、何もやらないし」
 瑠璃亜は目を丸くした。
「……ホント? いや、キリスト教徒じゃなけりゃ、確かに別に本来、やる必要のない儀式だけれど──うーん、神道のお家って、そういうの、厳しいの? そりゃ、徹底してるわね、雅巳くんちって」
 うー、また言われたよ、と雅巳はちょっぴりいまいましく思いつつも、答えた。
「そんなわけで……秋津のほうが早く帰ったほうがいいかも。手間取るようだったら、こいつだけ先に帰してよ」
 すると、秋津は慌てたように言った。
「いや、ぼくも別に──。うちも別にキリスト教徒なわけじゃなくて、ケーキ食べるくらいだから、問題ないよ」
 瑠璃亜はうなずいた。
「わかった──じゃ、こっちよ。行きましょう」
 行きましょうって──ここからさらにどこに行くんだ、と思う。
 ランタンを掲げた瑠璃亜を先頭に歩き出すと、やがて、狭い洞窟の床から岩の横壁に階段状に階段が刻まれていて、それが円形の岩壁に螺旋を描くようにどんどん上へとあがっていく。
 どうやらずっと高くにぽっかりと小さく丸く開いている天井板があるらしいが、あまりに近くてそれは見えない。ちょうど、円錐の巻き貝の模様が、刳り抜かれた形の巨大な岩盤に描かれているよう感じだ。
 辺りは薄暗くて、夜中みたいに感じる。空気はもあっとしていて、ちょっとなま暖かい。
 秋津とふたりで学校の帰路、歩いている最中に、携帯で瑠璃亜から連絡があり、そのまま、薄暗い夜道をプロセルピナに案内されてついてきたら──いつのまにか、この世界に来ていた。
 なので、ここが一体どこなのかがまずわからない。
「マサミ、疲れたら言いたまえ、わたしが背中に乗せてあげよう」
 ロランからはそんなことを言われたけれど、もちろん、雅巳は断った。そんなみっともないこと、できるもんか、と思う。けれど、次第にバテてきたのは、偽らざるところだ。
 だんだん息が上がってきたのだが、スポーツマンの秋津は心配そうに雅巳のことをちらちらと見てくるだけで、彼自身は全然、平気そうだ。
 やがて、上のほうからいきなり冷たい風が頬に当たった。
 みると、螺旋状の階段が終わり、階段の頂上までたどり着いたようだ。
 満天の、信じられないほどに美しく明るい星空が頭上に開けていた。
 思わず、雅巳は感嘆の声を漏らした。
「すごい……なんて──」
 秋津も絶句している。
 その横で、星明かりに照らされたロランがにこにこと笑って説明した。
「この星空はすごいだろう? こんなにきれいに星空は、このオカナンでも見れるのはここ一カ所だよ。ここは、この地方で一番、天に近い場所なんだ。だから、星々が近くに見れる──」
 あまりに感動してしまい、雅巳は声もなかった。これを見れただけでも、直輝のためとはいえ、このローゼリアンにもう一度来て良かった、とそう思った。
 雅巳と秋津、瑠璃亜とロランの四人が階段を登りきり、ものすごく高い場所であるらしい狭いステージの上に立った。
 切り立った岩壁の塔が、星の空の中に灯台のように聳えている……その頂上にいる。
 瑠璃亜が、そこで頭上の何かに合図するように、ランタンを高く掲げて、振った。
 すると──。
 遙か頭上から、何かが降りてくる。それが近づいてくるにつれ、長い縄梯子であるのがわかった。そして、その梯子を伝って降りてくるのは──かの金色の長い髪の麗しのエルフ、アスール族のレムリだった。
「やぁ、マサミ。来てくれて助かったよ。早速、来てくれるか?
 ロラン、きみにはツゥーラトゥーラが飛行の魔法を掛ける、と言っていたから、もうひとりのその人間族の少年を背中に乗せてあげてくれないか?
 さぁ、それじゃ行こう」
 レムリは挨拶もそこそこに雅巳の腕を掴んだ。
 ぐい、とその白くて優雅に見えるほっそりとした腕が信じられないような怪力で雅巳を釣り上げ、抱き寄せた。
「捕まって」
 言われて、仕方なく、レムリの首に両手で抱きつく羽目になった。
 いつもながらにレムリはしがみついている雅巳などそこにいないかのようなへっちゃらな様子で、縄梯子をすいすいと昇っていく。
 しばらくすると、あっという間に空中高くにその縄梯子で吊り上げられたような状態になり、周囲は宇宙に放り出されたかのような眩い何万何億とおぼしき星の灯と深い暗黒だけになった。
 レムリの肩越しに、その星々を見渡していると、あまりの素晴らしさにため息が出た。
 なんという星だろう!
 と……下の方で動くものがある、と思ったら、それは秋津を背に乗せたロランが夜空を駈け上がっている姿だった。
「ロランが……飛んでいる。セントールって、空を飛べるんだ!」
 思わず雅巳が叫ぶと、レムリは笑って答えた。
「いつも空を飛ぶわけじゃない、魔法使いに飛行の魔法を掛けてもらっているんだ。もっとも、飛行の魔法を掛けられても、空を飛ぶ訓練を受けていないセントール族の戦士はあんなふうに上手くは飛べない。
 ロランはすごく空を飛ぶのが上手いんだよ」
「ふうん──」
 なるほど。夜空を駆けていくロランの姿は、堂々としていて、優美だ。
「先に行くわね、レムリ」
 その時に、頭のちょっと上で声がした。瑠璃亜の声だ。
 見上げると、いつのまにか、そこには瑠璃亜の姿があった。
 なんと──。
 箒に乗っている。
(本物の魔法使いみたいだなぁ──って、瑠璃亜は本物の魔法使いだっけ)
 敬礼をするように手を振るなり、瑠璃亜は箒に乗って猛スピードで空を駆け上がっていく。
 そして、上空には雲に覆われた夜空に浮かんだ島のようなものの影が見えた。
 きらきらと銀色の光に包まれている。
 あれは、もしかして天国の島なのかな、と雅巳は思った。