| 転機になったのは、ペンクラブのボランティアで、トロムソの世界大会に行ったことでした。わたしは、まだ、わたしに書けることが残されているのではないか、と思うようになりました。 その直後に、今回の本で、担当編集者になっていただいたKさんにお会いしました。わたしが筑摩書房で企画を出した時の編集の方はすでに編集サイドから外れておられ、Kさんは前にお会いした時には別な会社におられたのですが、筑摩書房の編集部に移られたばかりでした。 わたしは、以前、筑摩書房でアーサー王伝説についての三部作の企画を提出していたことをお話ししました。「もう、十年以上前のことなのですけれど」、と。すると、「それ、やりませんか」という思いもがけない答えをいただいたのでした。 その時、わたしの中で、何が変わったのかわかりませんが、十年ほど前に、あれほどに気負って書こうとして書けなかったこの〈アーサー王宮廷物語〉の三部作が、書ける、という確信が不意にわたしの中に湧き上がったのです。こういうのって、どう説明すればいいのかわかりませんが、小説に関わる天使が本当に降りてくるんですよね。「時が来た」というふうに。 もっとも、企画がいまさら、もう一度、通るかどうかはわかりませんでした。わたしはどきどきしながら、Kさんからの吉報を待ちました。そして、とてもラッキーなことに、こうして、出していただけることが決まったのです。 そして、今年、2006年の2月25日に、第一巻『キャメロットの鷹』が筑摩書房より出版されました。今月、3月25日に第二巻『聖杯の王』が出版され、来月、4月27日に最終巻の『最後の戦い』が出版されます。 たぶん、この最終巻は、わたし以外には書けないかもしれない、とふと思いました。ものすごく不遜な思いかもしれませんが。時折、作品に「書かされている」という感情に襲われる時があります。この最終巻を書いている時、〆切に追われていたのですが、あまりないことなのですが、わたしは「終わらせたくない、もっとこの騎士たちとずっと時を過ごしていたい、この騎士たちをずっと書いていたい」という感覚を持ちました。それだけ、わたしの中に蓄積していた、アーサー王と円卓の騎士たちへの想いは大きなものだったのかもしれません。本当は、わたしはもっともっと書き込みたかったのかもしれません……サー・ガレスのことや、サー・モードレットと兄弟たちのこと、サー・ランスロットとその弟や従兄弟たちのこと、サー・ガウェインとサー・ユウェインの交わりや、サー・ラヴェインのこと、サー・パーシヴァルとサー・ガラハッドのこと……。 円卓、というのは、不思議な象徴だな、と思います。今も、ヨーロッパで、仲裁者が入って和平のために同じテーブルについて話し合うことを、円卓会議、と呼んだりします。今の国連は必ず丸いテーブル、円卓について話し合われますし。アーサー王伝説には、邪悪で強大な敵、というものがありません。利害関係が対立しますが、皆、それぞれの立場において「正しい」人たちばかりです。そういう意味では、アーサー王宮廷キャメロットの状況は、すごく今日的状況だと言えます。そして、彼らは最後に滅びたわけですが、わたしたちはどうなるのでしょうか……? もう書き終わってしまったので、書き上げた作品は、読んでいただく読者の方々のものだと、今はわたしは思っています。 書き上げるまで、結局、十五年がかかってしまったこの作品ですが、読者の方々は、別に十五年かけようと、二週間で書こうと、そんなことは関係なく、ただ、作品があるだけでしょう。でも、できれば、わたしの思いの丈が伝わりますように。そんなふうに、今は祈っています。 |