| ●ルシアンの物語 さて、最初の戦いで、フェアノオルは勇み足をしたあげくに殺されてしまい、中つ国に戻ったノルドオル・エルフの王子たちには、ただ、シルマリルを取り戻せ、という誓言だけが残ります。一方、中つ国には人間たちも増え、そのほとんどはモルゴス側についたのですが、エルフたちの知恵を学び、エルフたちとともに戦う人間の種族もいました。それが、エルフの友である、ベオル・ハレス・ハドオルの家系で、彼らはエダイン、と呼ばれました。 モルゴスの軍勢は強固で、それに人間たちも加わり、バルログや狼や龍なども襲いかかってきて、なかなかエルフ軍は思うように勝利を掴めません。けれど、ノルドールの王子たちはそれぞれに中つ国の西の地域に王国を作り、住まいを定めました。特に、西の端の港を守るファラスを統治するシンダアル・エルフであるキアダンと仲がよい、末弟フィナルフィンの長子であるフィンロド・フェラグンドの王国、ナルゴスロンドの領土は、善政を敷いたせいか最大でありました。けれど、彼は独身で、妹のガラドリエルに何故、妻を娶らないのかと訪ねられると、いずれ、自分はこのシルマリルの災いによって破滅する予感がする、とつぶやき、また、彼の心にはアマンに残って彼にはついてこなかった愛する乙女、ヴァイヤアル・エルフのアマリエの姿があったのです。 ある時、炎のようにモルゴス軍が流れ下ってきて、エルフの王子たちの王国を襲い、その時、まっさきに矢面に立ったのはフィナルフィンの息子たちで、下の弟であるアングロドとアイグノオルが戦死します。モルゴスに挑んで、救援に来たフィンゴンフィンも戦死。フィンロド・フェラグンドもまた、あわや死ぬところを、彼は、人間である、ベオルの息子、バラヒアに助けられます。彼はその功を称え、彼に指輪を与えて、バラヒアの子孫が困窮した時は、自分が必ず助ける、という誓言を与えます。人間であり、エダインであるバラヒアの王国はその後、モルゴスに徹底的に攻められ、バラヒアの息子ベレンは王国を失い、南の地を逃げまどい、やがて、ドリアスのシンゴル王の領地に迷い込みます。そこで人間のベレンは、シンゴル王とメリアンのひとり子である王女のルシアンと出会います。最初は逃げるルシアンですが、彼にティヌーヴィエル(ナイチンゲールの意)と呼び掛けられて戻り、やがてふたりは恋に落ちます。ルシアンは、彼を恋人として父のシンゴル王に紹介しようとするのですが、シンゴル王は人間ごときに大切な娘はやれぬ、と激怒。激昂のあまりに、妻の制止も聞かず、「シルマリルを持ってきたら、娘をやる」という不吉な誓言を立ててしまいます。 ベレンは、バルヒアの指輪を手にナルゴスロンドのフィンロド・フェラグンド王に、シルマリルを入手すべくモルゴスの元へと赴く協力を頼むと、フィンロド・フェラグンド王は青ざめます。誓言ゆえに、助力を断るわけにはいかないが、シルマリルについてはフェアノオル王の息子たちが、自分たち以外のものになることを赦さない、と誓言を立てているから、ベレンに協力すれば、眷属たちを裏切ることになってしまいます。彼は自分の立場を眷属たちに説明して力を貸してくれるように頼みますが、フェアノオルの息子たちはナルゴスロンドの広大な領土を羨んで、彼の死を願い、そっぽを向きます。仕方なく、フィンロド・フェラグンド王は最後に残った弟のオロドレスに王座を譲り、死を覚悟して十人だけの家臣を連れてベレンとともにモルゴスのもとへと向かい、モルゴスの手下であるサウロンに捕らえられ、その地下牢に繋がれることになります。 地下牢に繋がれたベレンの苦難を感じたルシアンは、父に制止され、幽閉されても、自力で脱出、ドリアスを出て、ベレンを助けに行きます。途中、フェアノオルの息子、ケレゴルムに捕まり、結婚させられそうになりますが、ケレゴルムの命令で彼女を見張っていた猟犬のファンの好意を得て、またしても脱出。その頃、地下牢ではベレンとフィンロド・フェラグンドだけが生き残り、狼がベレンを食べようとしていました。最後の力を振り絞って、フィンロド・フェラグンドは素手で狼と戦い、ベレンを守って死んでしまいます。ところが、ファンがサウロンと一騎打ちして勝ってしまったので、ベレンはルシアンに助けられます。その後、ルシアンは母親譲りの魔法なども使い、モルゴスの王冠から、シルマリルをひとつだけ奪還することに成功します。けれど、ベレンは片腕を狼にかみ切られ、シルマリルはついに手を入れるものの、それをシンゴル王に渡すと、まもなく、死んでしまいます。ルシアンはマンドスの館までベレンの魂を追ってゆき、歌でエルフと人間の哀しみと嘆きを訴えることによって神々の心を揺さぶり、ルシアンはエルフとしての永遠の生を捨てることと引き替えに、中つ国でのしばしのふたりの生を勝ちえます。そして、これが、エルダールとエダインの最初の婚姻となり、息子のディオルを生まれます。 シルマリルは、シンゴル王に悲劇的な結末をもたらします。シンゴル王はシルマリルに魅せられて、数奇な運命のもとに彼にもたらされたドワーフの秘宝の首飾りにシルマリルを填め込み、自分のものにしたい、という欲望にかられるからです。けれど、その細工をしたドワーフたちと諍いになり、シンゴル王はドワーフたちに殺されてしまいます。愛する夫を無くしたメリアンは彼のためにドリアスの守りとして張っていた魔法帯を取り除いてしまい、いなくなってしまいます。 ドワーフの軍勢は、ディオルが押し戻すものの、やがて、ベレンとルシアンも中つ国から人間として死出の旅に出て、その後、ディオルは残されたシルマリルを身につけてしまいます。そのせいで、自分たちの他のものにシルマリルを所有させるわけにはいかない、という誓言をしているフェアノオルの息子たちがディオルの王国に襲いかかりました。二度目のエルフ同士の殺し合いの戦いとなり、フェアノオルの息子の、ケレゴルムとクルフィンとカランシアが死に、ディオルも殺され、幼いディオルのふたりの息子、エルレードとエルリードは捕らえられ、ケレゴルムの家臣たちにより、復讐としてドリアスの森に置き去りにされ、餓死するにまかせられる。けれど、ふたりの妹である幼いディオルの娘のエルウィングがシルマリルを手に逃げ延びます。 |