| Cornwall 地方へ。 私がイギリスに行った目的はぁ。少々余人にはわかりにくいと思いますが……実をいえば、アーサー王伝説発祥の地である、ティンタジェル城にどーしても行きたかったのですね。これが、コーンウォル地方にあります。 そして、コーンウォル、といいますと、スーザン・クーパーさんがお書きになった「コーンウォルの聖杯」の舞台ですし。青池保子の「エル・アルコン」なんかにも出てきますね、英国海賊の本拠地です。 時間的な問題で、ウェールズをまわるか、スコットランドにするか、コーンウォルをとるか、という選択になった時……コーンウォルが私の中で勝ったのです。結局、ティンタジェル城がそこにあったから、という……ただそれだけで。 コーンウォルには、バス・ツァーに参加することにしました。グラントン・ツァーといって、日本から申しこめたのはいいんだけど、「若者は歩くべし」は日本以外の国じゃ鉄則でして。私は、最年少が私、三十代がふたり、あとはすべて老夫妻および老婦人老紳士というツァーに飛び込んだわけです。 日本人は私ひとり、トルコ人のご婦人が二名(トルコ語しかしゃべれないという上品なお母さまと英語ぺらぺらの三十代のお嬢さんの二人連れ)、あとはすべて英語圏内の方々でした……それもすべて大英帝国、もとい、英国連邦の各国からか、イギリスの郊外等からいらした方々でした。 その顔ぶれの多彩なこと……アメリカ人、カナダ人、オーストラリア人、南アフリカ人、コンゴからの移民の黒人女性。お話しになる英語はみーんな訛りがあって聞き取りにくく、思わず最初のうちは泣いてアホの振り(振りじゃなかったけれど、ほんとにアホだったけれど)していた私……。 ガイドさんはフィリップさんという、フランス系のイギリス人でした。 旅の行程は、ロンドンから、リア王由縁の地でローマ風風呂場がある古い都のバースを経て、コーンウォル半島を北の海岸線沿いに南下、デボン州を通ってコーンウォルへ。テンタジェル城に寄って、大英帝国の港町フォーマスへ。そこから大陸に一番近いイギリスの果て、Landendへ。そしてネルソン提督やドレイク船長の古巣プリマスに行って、ダートムーアの霧の荒野を通り抜け、アーサー王の死地、なんとお墓まであるグラストンベリィ寺院へ行き、中世の教会都市ウェルズに入り、ソールズベリィ寺院へ。そして最後にストーンヘッジに行く……というコース。 旅の間中、ずうっとわたしはツァー仲間には「ケイト」と勝手に呼ばれてました。というのも、わたしの日本名は英語圏の人にはよほど発音しにくいらしく(母音が三つ重なるし……)、何度言っても聞き取ってもらえなかったという(くすん)。しかし……そのわたしの名前を一回小さな声で言っただけでも聞き取ったニューヨークのティファニーの店員って偉大だと思ったわぁ……貿易摩擦なんのその、日本人っていいお客さんなのね、わたしもペンダント買っちゃったけれど……。 Beaconsfield……ツァーで最初に行った村。何の変哲もないただの古い村なんですけれど……妙に印象的だったのは、別にたいした遺跡があったわけでもない、ただの村だったから。 時計台のある古い教会があって(17世紀から建っているそうです)、その回りをぐるーっと倒れかけたお墓がごろごろ……古いお墓は地面が陥没してたりして、なんてゆーか、ほら、マイケル・ジャクソンのスリラーってプロモ・フィルムに出てくる墓地、あんな感じでいまにも何か出てきそう……。雑貨屋があって、古い家並みがあって、で、少し行くと煉瓦塀が続く田舎道が始まる。その道がなんとなく、ジョイ・チャントの「Red Moon and Black Mountain」の冒頭に出てくる風景に似ている、そう思いました。 大きな犬を散歩させている姉弟に出会う。そのままイギリスのファンタジィに入ってしまいそうな感じ……。 道を歩いていくと、いつまでも煉瓦塀が続く……塀の内側は木々の梢でいっぱい。この中はなんなんだろうと思っていると、やがて謎が解けました。おっきなお屋敷だったんですね。門のところにに来ると、“Private”とありました。で、当然、お屋敷の姿なんざ門からは見えもしなくて、見えるのは広々とした芝生とお馬さんだけ……まぼろしの白馬でしたわー。 ここはまだオックスフォードの手前です。イギリスはロンドンをちょっと離れるとこんな感じなのですね。電車で三十分も行けば、すでに馬・牛・羊と揃います。わざとそうしているんだって説もあるそうな。 Tintagel城跡。念願の地♪ ここがどういうところかというと。アーサー王伝説を詳しく知っている人か、あるいは映画「エックスカリバー」を観ている人ぐらいしかピンとこないでしょうねぇ。アーサー王は、ペンドラゴンの称号を持つ常勝王・ユーサーの子です。このアーサーが生まれるにあたっては、やや血腥い経緯があったのです。その血塗られた出来事の舞台となったのが、このティンタジェル城なのです。 アーサー王の母イグレーンは、ユーサー王の妃になる前は、このティンタジェル城の城主ゴロイース公の妃でした。ところがゴロイース公と戦ったユーサー王は和平の席でイグレーンを観て横恋慕……このために和平は決裂。ユーサー王は、すでにゴロイース公との間に三人の娘を産んでいたイグレーンを、夫を殺して手に入れます。しかも、なんとしてもイグレーンを手に入れたかったユーサーは、戦いの最中に魔術師マーリンの力を借りてゴロイース公になりすまし、そのゴロイース公本人が戦場で殺されたその時にイグレーンを抱いていて、その時にできた子供がアーサー王だという……この辺りは、子供向けのアーサー王伝説のお話には書かれていないエピソードです。 アーサー王の異父の姉であるティンタジェルの姫君、モルゴース、エレイン、モーゲンはアーサー王を憎んで、後にアーサー王が兵を挙げる時にはその夫たちがアーサー王に反旗を翻し、激しい戦いとなります。 特に末娘のモーゲンは尼寺に預けられて育ち、そこの仙女たちに魔術を教えられて妖姫として知られるようになります。 絶世の美女イグレーンゆずりの美貌と輝く金髪……古代の秘儀を体得した不思議な力……。 モーゲン・ル・フェ──そう呼ばれます。フェ、とは、人間の女性の姿をした妖精のことをいいます。彼女は、アーサー王伝説の中でももっとも神秘的な女性です。 私がティンタジェル城に来たかったのは、ここがアーサー王伝説の起点となる場所だったからです。そしてもうひとつ……このモーゲンが生まれた場所でもあったからです。 あまり期待しないように用心して行ったのですが、着いてしまうともうダメで……心は翔びました。 ティンタジェルに着いて、私はバスを降りると城址へと急ぎました。 一刻も早く行って、一刻も長くそこにいたかったからです。 城への道はかなり長く、坂道をずうっと降りていきました。 海辺の城です。正確に言うと、岬から突き出した、小島の上に築かれた城でした。岬から階段を私、城に行かれるようになっています。 城は絶壁から海を見下ろした建っています……というか、建っていたんです。 今、残っているのは、その昔の面影を残す広大な石づくりの廃墟だけなのです。 岬のほうから階段を城に向かって渡る間、私は傍らに時を越えて、幼い娘たちの手を引くイグレーンの姿を捜しました。見えるのは四方を囲む、海、海、海……。コーンウォル地方特有の、水平線がはっきりしない、でも、青くて、深くて、陽に輝いている海──。 崩れた石壁に座って、じっと海を見下ろしている青年がいました。一日ああしてるつもりなのかなぁっていうふうに、身じろぎもしない……英語で、何を考えているんだろう、と思いました。 私も絶壁を砦の石垣を追って少しづつ海に向かって歩いていきました。スカートに草が絡んで、葉がまとわりつきます。人が踏み分けていないせいか道がほとんど消えかかっている場所を。 伝説と現実の挾間……史実におけるティンタジェル城は、ヘンリー一世の庶子が建造しています。でも、その遙か昔に、ここに幼い金髪の姉妹が美しい母と父と暮らしていなかった、とは誰にも言えますまい。 この城には、ゴロイース公が戦死し、滅ぼされた後に、巨人たちが住み着き、ランスロットたちに退治された、という伝説も残っています。 なるほど。この廃墟は、巨人たちの棲み家としたは、なかなか良さそうです。 私も、先程に見かけたあの青年のように、集合時間までの時間いっぱい、ティンタジェル城址から海を見ました。 土と水……そのふたつがとても濃い処です。二度と来れるかわからないけれど……ともかくここに来ました。 モーゲンとイグレーンの地に。 その後、グラストンベリィ寺院の廃墟では、アーサー王とグウィナヴァー王妃の墓と称される場所も訪ねましたから、私はアーサー王の生と死をこの旅で巡ったことになりますね……。 |