1985年、9月のはじめから約半月、私はかの「英国」へ行ってまいりました。何といっても、あの「英国」……Englandであります。
 イギリスは私にとって特別な国です……だって、私の十代は、アーサー王をはじめ、「指輪物語」「ナルニア」……そしてその底にある、ケルトの神話、それも古い古い神話…日本にとっては、月読や天照にあたるような、アイルランドやウエールズの女神や精霊たちに頭を占拠されてたんですから。
 もちろん、人間にとっては、場所ってのは、何処でもいいんだ、と思います。何も日本のこの環境に不満があるワケじゃない。何処で見ても、月は月、太陽は太陽、風は風……それでも、ケルトという、見もしない土地に惹かれたのは、何故なのかしらん。行ったことのない土地なのに、私はケルトに妙な“なつかしさ”を感じていた。
 わたしには、昔から、一つのイメージがあったんです……うーんと、小学生ぐらいの時からです。荒野で、夜に、火を囲んでいる。私と……仲間の人々。闇が包んでいるので、火の向こうはよく見えないけれど、向かいに座る人も、隣りに立つ人も、もしかしたら、異形の者かもしれない……でも、私はじっとしているし、その人たちもじっとしている……。
 ………そんなイメージです。
 それが、いつしか、ケルトのイメージにつながりました。
 だから……なんとなく、確めてみたかったってのもありました。
 本当に実在するイギリスの地と、私の心の中の風景は、はたして共通するものがあるのかってことです。
 で……結論? ずうっと、デジャブしてたみたいな感覚です。
 というわけで、私の旅は、ロンドンを起点にして、主にコーンウォル地方でした。
 ホントはスコットランドにもウェールズにもアイルランドにも行きたかったけど……いつか行きます、ええ、きっと、ね。
 …で、とりあえず。これは、私のささやかな報告書です。
 何か感じとっていただけたら、…あるいは、あなたの心の旅の何らかの参考にしていただければ、幸い♪

 LONDON……な、なんと、私がヒースロー空港に着いたのは、夜の9時ごろ……ひとりっきり。はじめての一人旅だったんですよね……それで、そのはじめての一人旅をこともあろうに、言葉もろくに通じない“とっくに”異国で敢行するという、この大胆さ、無謀さ……我ながらスゴイと思う。親が心配するはずよ……この思いつきのみで行動するおそろしい性格。
 空港で、さすがに心細くなって、税関に並ぶ列で、前に立っていたアメリカ人に「列はここで正しいんでしょうか(Is this line for foreigners? Am I right?)」と尋ねると、びいっくりした顔で「Yes,Are you alone?」と尋ね返され、その後もあれこれと気を使って話しかけられてもらったんだけど(ひぇぇぇぇ…英語がぁっっ)。どーみても、こおんな子供が一人で旅行なんて、大丈夫っていう感じだったみたい。ちなみに、日本人は、というか、東洋人の姿すら見えず……見事にひとりぽっちでありました。
 それでも。何とかなるもんだ。タクシー乗り場に行って、ホテルの住所を渡し、乗ること30分。(大体23ポンド……チップ込みで大目に渡しちゃったんだけど、やっぱり高かったのね……)。なにしろ、夜中。次第に映画や童話の挿し絵等で知っている風景が街灯の下にほのかに見えてくる。人のいない通りを過ぎながら、やや不安に座っていると、ホテルに着き、チェック・インしてしまえば、こっちのもの。
 イギリスのホテルは、必ず紅茶のセットが付いているの ケトルとティ・カップにお砂糖、ミルク。持ってきたクッキーとお茶で一服、まず、落ち着いて……。
 んで、テレビをつけたみたら、いきなり、「コヤニスカッティ」を放映してたんで、オドろいた。あー、イギリスに来てるんだなぁ、とか思って、キングス・クロス・ロードのホテルのベットにもぐりこみ、国際電話でとりあえず「ぶじだよ〜っ」とTelだけして、……寝てしまったのでありました、そんなもんよ。で、目を覚ますと、……そこは、見知らぬ国、私がずうっとあこがれてた、イギリスの国だったんです……。
 
 TUBE(地下鉄)に乗って、いざ、ロンドン。ロンドンでは、ピックポケットに気をつける他は、とにかく地下鉄に乗れば、まず道に迷うこともないし、一人でも大丈夫。 
 まず、テームズ河を見たかったの……んで、ロンドン搭へ。着いたのが、土曜日。一人でひたすら、テクテクと歩く。ロンドン搭から、よくTVで見るタワーブリッジを見て、タワーブリッジの上から、茶色っぽいテームズ河を見下ろし。河畔の町並を見てると、ああ、ロンドンだと実感。
 いい天気だったのよねぇ……。
 とぉっても、不思議だった……いつもは、その時立っている橋の……裏っ側で暮らしているんだってことが。今も友達たちのぜえんぶはそこにいて、私ひとりがタワーブリッジにいるんだってことが。でも、そんなことは当り前のことで、ロンドンにはロンドンの日常があって……。当り前のように、金髪の人とかインド人の美少年とかが歩いてるのよね。うん。ホントに当り前です。
 実は。私はイギリスに来る前に、一週間づつ、これは友人と一緒にだけど、サンフランシスコとニューヨークも回っていたんです。で、感じたのは……ロンドンはとっても東京に似てるってことでした。総じて言えば、都会としてのロンドンってのは、銀座に似てました。……古めかしくて高級、しゃれててモダン。But、遊び場としてはいまいち。が、穴場は多い。………最大の欠点は、日曜日は最悪、ということ。
 日曜祭日夜昼構わず町そのものが遊びつづけてるサイコーに面白い都会ニューヨークに比べると、ロンドンって、はるかにイナカ。U・Kファンには申しわけないけど、それは確かだと思う。特に、日曜日のロンドンには来ちゃいけない。店という店がほとんど全部閉まってます。これは悲しい。で、次の日、日曜日は、博物館やら公園やらでボ〜ッとしてました。
 でも、これがすごく良かった。
 ピーターパンの舞台のケンジントン公園の深い森のような美しい木々、ナルニアに出てくるような街灯。人工的な美しさなんだけど暖かさがある。
 ケンジントン・パレスを歩いていた時、いきなり、英国人の警備員さんに日本語で話かけられる。びっくりしたけど、嬉しかったな……なんといっても、やっぱり心細く思っていたから。言葉が通じないところに一人でいるってことに。昔、船員さんだったとかで、長崎や横浜に行ったことがあるそうです。すてきな、背の高いおじさんでした。とっても上手な日本語。私の日本語の呟きをとらえて、「日本からいらしたんですか?」と話しかけてきました。思わず、「Yes」と英語で答えた律義な私……。10分くらい話して、笑顔でバイバイしてもらってからも、何となく嬉しくって、ニマァとしてた。そのあとはケンジントン公園も何となくすごぉく親しく感じられて……。こういうのって、いいな、と思った。単純かなぁ?(あれ以来、日本で外国人に会うと、思わず話をしようと努力してしまう私……だって、言葉が通じないところで地元の人に意志の疎通の努力をしてもらうと、かなり安心して、おちつくと思うもん……一生に何度もある旅じゃないんだろうし、日本への旅なんて。)
 この二日間のロンドンは、コーンウォル地方への旅のいいウォーミング・アップになりました。ロンドンでは、日本人の姿は、捜せばかなりあった。大英博物館やロンドン搭では、団体さんの解説のただ乗りが有意義でした。でも、コーンウォル・南英では、何と、一度も日本人観光客の姿に出会わなかったんです。あなかしこ。